愛情表現、人それぞれ







世間では祝日となる月曜日。一般的に三連休を楽しんでいるであろう、目の前のカップルをベンチに座りながらみる沖田へ
はまたよからぬ事でも考えているのではなかろうかと思いながら、そんな気持ちを押し留めてコーヒーを渡す。
今は張り込みでも見回りでもなく、所謂サボり中だ。厳密に言えば、サボっている沖田と、探しにきて巻き込まれたなのだが。
見つけて早々に、コーヒーを奢れば仕事に戻ってやらない事も無いと言われれば、どうせ奢っても戻る気は無いのだろうとわかっていても
それに従いコーヒーを買いに走ってしまったのは刷り込まれた恐怖故か。はたまた便乗してサボろうと思ってか。
どちらにしても、沖田は仕事に大人しく戻る気など無いだろう。


「はぁ、やってらんねぇな」

「それはこっちの台詞ですよ。沖田隊長、いい加減仕事戻ってください」


そうでなければ土方の怒りの飛び火がこちらにまで降りかかるのだ。たまったものではない。
のぼやきなど聞こえぬフリを通し、休日に何故働かなければならないのだと残ったコーヒーを一気に煽る。
確かに自分たちの仕事は休日などあってないようなもの。暦上の祝日や連休は、自然とイベントだ祭りだと借り出され忙しい日になる。
商売をしているものにとっては稼ぎ時、自分たちにとっては普段より一層目を光らせ、犯罪を未然に防ぐ神経をすり減らす日。
そう思うと段々とやるせなくなってくるからこそ、あまり考えないようにして、むしろ働ける事に喜びを感じておこうと思っているというのに。
沖田はの必死のプラス思考への流れを難なくマイナスへ切り替えてしまう。だがここで大人しく流されるわけにも行かないと、踏みとどまった。


「まあまあ、頑張った分お給料もらえるんですから、いいじゃないですか」

は悩みが無くていいな。まったくそのスポンジみてぇな脳みそが羨ましいでさ」

「スポンジは吸収良いんですよー」


ここで怒っては思う壺だと流すように答えたが、内心は必死に平常心だ、と唱えていた。
打てば響くような反応を期待していた沖田はの態度に、さも面白くなさげに鼻を鳴らす。
既にコーヒーは飲み干してしまった。そろそろ次の動きがあるだろうと踏んで心の準備を整えていたが予想に反して沖田からの動きがなかった。
肉まん買ってこいだの、ジャンプ買ってこいだの、土方暗殺してこいだの。
いつもならくるだろう言葉が一切無いというのも、かなり気持ちが悪く不気味だ。


「・・・あのカップル・・・」

「へ!? え、あ、ああ・・・さっきから店の前でいちゃついてますね・・・いい気なもんです」

「ああいうのをみると、鼻フックで市中引き回しの上橋の下に逆さ釣りにして、その真下で焚き火でもしてやりたくなる」

「明日の新聞の一面を飾るような真似は止めて下さい。お願いしますから」

「だったら代わりにお前にやってやろうか?」


間髪入れずツッコミをすれば、そこから食いついて沖田はとんでもない事を言ってくる。
しかしそれは想定済みだった。なにせほぼ毎日の如く、そんな会話を繰り返しているのだ。は淡々とした口調でお断りします、と
言葉にするだけで終わらせる。の返答で会話が途切れればいいのだが、沖田がそう簡単に引き下がるわけも無い。
なぜか懐から鼻フック以外にも、首輪やら縄やらと、とにもかくにも公共の場所で、しかも警察が出すのは如何かと思われるものを取り出し
ベンチの開いた場所へ並べ始めた。


「この中から選ばせてやりますぜ。、好きなの選びなせェ」

「嫌ですよ。しかもまともなの何一つ無ェし。というか、なんてもん常備してるんですか。歩くサディスティックの塊ですかあなたは」

「こんな特別待遇、だけなんだぞ。それを断るなんて、よほど俺に好きに苛められたいらしいな」


今まで耐えに耐えてここで深い溜息を吐き出した。
の様子に、普段ならムッとする沖田だが今日は比較的機嫌が良いのだろう。出した物を懐へ仕舞う立ち上がりどこかへ行こうとする。
だがそのまま見失うわけにも行かないと、これも仕事だと割り切りあとを着いていく。
一瞬、見回りのほうに行くのかと考えたものの、そう甘くは無い。どうやら次のサボり場所へ移動しているだけのようだった。
後ろを歩くへ振り返ることは無く、先ほど選ばなかった事を後悔する事になる、など言うが肝心のはそれを脅しともなんとも感じていない。


「沖田隊長、私を苛めても面白くないでしょうに。他に面白い人いるんじゃないですか、そっち苛めたらどうです?」


とんでもない言葉ではあるが、こうも毎回サボった沖田を探し奢って絡まれて、いい加減精神的にうんざりしてくると言うものだ。
そろそろ他にターゲットを見つけてほしいものだと、半ば本気で思っているのだが沖田はまったく取り合わなかった。


「他に面白いやつなんていやしねぇよ」

「私は面白いんですか?」

「面白いとか以前に、俺は興味ない奴は苛める気すら起きやしねェ」

「・・・なんだろう、どう頑張っても甘い言葉に変換できないんですが・・・」


うんざりしつつ吐き出したの言葉に、ふっと後ろを軽く振り返った沖田はこれまでに見たことが無いほどに不敵に笑み
突然立ち止まりのほうへ大きく踏み込むとその耳元で、覚悟していろ、と囁いた。
さすがのも、それには驚き顔を赤らめ足を止め、気付いた時には沖田はどこにも姿なかった。



「・・・やられた・・・」





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