これでも姉なんです 銀時編







いつものように仕事もない昼下がりを過ごす万事屋の三人。
いい加減仕事を探してこいと言う新八だが、言われた銀時からはお前が探せと反論の言葉。
神楽は空腹を紛らわせる為か、先ほどから無言で酢昆布をかじるばかり。
そんな中、聞こえたインターフォンに全員がピクリと反応する。
客なら良し。それ以外は追い返せと銀時が新八へ目配せすれば、少しだけめんどくさそうに立ち上がると玄関へ向かった。

玄関の前まで行けば、もう一度鳴るインターフォン。
はいはい、今出ますよ。新聞なら間に合ってます。
そう言いつつ開けた扉の向こうには、新聞の勧誘でも妙なセールスでもなく、しかし家賃の回収にきたスナックお登勢の従業員でもなかった。
見知らぬ女性が一人。少しだけ肌蹴るようにして着崩された着物は、ファッションなのかだらしが無いのか微妙な所だ。
帯止めの紐には笛を差している。ふんわりした髪は天パーなのか、不規則にはねている。
さらには銀髪の死んではいないがそこはかとなくやる気の無い目。
おかしい。どこかで見たことがある気がする。そう思っている時点で新八は、その先を考える事を無意識に拒否しているようだった。



「坂田銀時って奴ァ、居るかい?」



困惑する新八をよそに見た目とは裏腹に凛とした声で問われた。
少しだけ反応が遅れたが、女性はまったく気にはしていない様子でただ立っているだけだ。
銀時に用ならば客である事に代わりは無い。少々お待ちくださいと言って、銀時を呼びに行こうとした新八を女性が呼び止めた。



「少年。奴には私の特徴を一切話すな。ただ、お前に会いたがっている客がきた、とだけ伝えればいい」

「は、はあ・・・わかりました・・・」



なにやら逆らってはいけない雰囲気を醸し出す不思議な女性である。
特に睨まれたわけでも、脅されたわけでもないと言うのに、疑問に思う前に自然とそうした方が良いのだろうという気にさせる。
新八は言われたとおりソファにだらしなく寝転がる銀時へ先ほど女性に言われた言葉をそのまま伝えた。
名指しで言われてしまえば出ないわけにもいかない。どんなやつだ、と言う質問にはよくわからないとだけ答えておいた。
文句を垂れ流しつつ、銀時が玄関へ向かうと「あれ?」と立ち止まる。玄関は開けられたままになっているが、先ほどの女性がいなかった。

自分に用があると言っておきながら、どこにも姿が見当たらない。一体何だというのか。
仕事も糖分も貯金も無いという三重苦に苛立っている銀時を、更に苛立たせるには十分過ぎる要素だった。
玄関へ向かう時以上に文句を言いながらドアを閉めに行ったついでに外を確認するが誰もいない。
それとも新八の冗談だったのだろうか。それだったならばあとで覚えておけと、口にしながら鍵まで閉めて振り返ったところで、銀時の動きは止まった。




「久しいねェ、銀時?」


「ぎ、ぎっ・・・・・・、
ギャアアアアア!!!!




先ほど新八が対応した女性がニコリと微笑みながら後ろに立っていた。
銀時はその姿を見た瞬間叫び声をあげると同時に、玄関へ走ろうとしたが生憎、先ほど自分で鍵を閉めてしまった。
逃げようと必死の銀時の襟首を捕まえると容赦なく引っ張り倒す。
倒れた体勢から這いずってでも逃げようとするが、肩甲骨の辺りを踏みつけられてしまえば身動きが取れない。
新八と神楽は、先ほどの銀時の叫び声とドタバタと煩い音にジッとしていられず、障子を開ければ目の前で起こっている事態に暫し固まってしまった。
二人などお構い無しに、尚も逃げようとする銀時へトドメとばかりに腰の上に座るとそのまま足を組み笛で後頭部へ一撃をいれる。



「テ、テメー! ! 何でここに居るわけェェェ!!??」

「おいおい、実の姉に向かって、その言い草は無いんじゃないか?」



女性、の言葉に新八と神楽は正直、どう反応していいのかわからない。確かに髪の色や癖のある天パーと、似ている部分は多々ある。
もしかしたら血縁なのでは、という考えはもちろん新八の中に小さくともあったことは確かだが、銀時の家族など話題に出た覚えも無い。
こちらからも聞いた事は無いし、特に知ろうとも思ってはいなかった。それが突然の「姉」と言う存在の登場に戸惑わないわけがない。
しかしそんな二人の困惑などまったく眼中にもなく、目の前で銀時とは今だ何かを言い争っていた。



「返せ! 俺の平穏無事な生活を返せェェェ!!」

「お前の生活が平穏無事? 冗談も大概にしておけよこのトラブルメーカーが。
 デパートで爆弾処理騒ぎに屋根の上で刀で決闘して、あまつさえどこぞの海賊に目をつけられた口だろうが」

「何で知ってんのォォォ!?」

「そんなもんなんとなくだよ、なんとなく。それより銀時、どうした? 先ほどから五センチほども前に進んでいないようだが?」



が銀時の腰の上にドカリと座り込んでから這いずろうとしても思うように動かない。
普段の彼ならば女性一人が背中の上に乗った所でどうと言う事も無いだろう。
しかし見えざる力でも働いているのではと思えるほど、銀時は一向に進む気配を見せない。



が重す、
ぎっ!!!

「そらそら、無駄口叩いてないでさっさと前へ進みな」

「笛でボコスカ人の頭叩くんじゃねェェェェ!! 天パーになったらどうすんだ!」

「そんなもん元からだろ。大体中身だって天然物のパーなんだ。今更悩むほどの中身もないだろ?」

「ふーざーけーるーなー!!!」

「反抗するな、もっと苛めたくなる。まあ、ここに来たのも苛めにきただけなんだけどな」

「帰れ!! 今すぐ帰れ!!! 新八塩を持ってこーい!!!」

「そうだな。少年。塩をこいつの目玉にたらふく塗りつけてやってくれ」



どうしろと言うのか。
二人の視線が向けられた新八は困惑したが答える事が出来なかった。神楽はそれから逃れるようにもの影に隠れてしまっている。
目の前で銀時をこれでもかというほど苛め抜いているの姿は、この上なく楽しげだった。
それはどこぞのサディスティック星の王子を髣髴とさせる、陰のある笑み。
銀時も大概Sだが、Sの姉は超がつくほどのSだった。





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