大好きな手







暗い。 恐い。 一人きり。





周りに誰もいない。

どんなに手を伸ばしても何も掴まない。
どれだけ声を上げても空しく響くだけ。


誰か。 誰か。 だれか・・・・







歩いていたのか。走っていたのか。
それは分からないが、足が止まった気がした。

しゃがみこんで、うずくまって。
もうこれ以上は前には進めないと思った。



何か、温かいものが手に触れる。



顔を少しだけ上げれば、暗い中に、光が見えた。








「・・・、   ぃ   おい  、おい」

「・・・・・・」

遠くから聞こえていたような声が、すぐ近くで聞こえた。
は薄っすらと目を開ければ、目の前には少し眠そうな顔で覗き込んで様子を窺う銀時の顔があった。
数回瞬きをしてからゆっくり体を起こせば、少しだけ違和感を感じる。
右手を見ると、確りと銀時の手を握っていた。

「あ・・・・あれ?」

「あれ?じゃねぇよ。大丈夫なのか? 酷くうなされてたぞ」

「う、うん・・・大丈夫。 えっと、ごめんなさい。起こしちゃったみたいで・・・」

「別に気にすんなよ。たまたま便所に起きたら、うんうん唸っていたんだよ。お前が気にする事じゃねぇ」

そう言いながら空いている方の手での頭を軽く叩く。
頭を叩かれながらも、その手の暖かに安堵し、掴んだ手をじっと見つめた。

「ねぇ銀さん。ちょっとわがまま言っていい?」

「何だ? あんま無茶な事言うなよ」

「寝るまでで良いから、手を繋いでて欲しいんです」

きっとそうすればもうあんな嫌な夢は見ないから。


口にせずに思えば、銀時は少しだけ考えてすぐに答える。

「たく、お前は甘えん坊だな、オイ。銀さんの手を借りるんだから、もううなされんなよー」

「はーい」

少し照れくさいのかそっぽを向いて頭を掻く。
そんな銀時の事を見ながらは横になると何も言わず、銀時は布団を肩までかけてくれた。
手から伝わる温かさに安心して、少しずつ睡魔がを侵食していく。

「・・・・銀さーん・・・」

「んだよ」

めんどくさそうだが、それでもきちんと返事をしてくれる。
そんな不器用でぶっきらぼうな優しさには目を閉じたまま微笑む。
ゴツゴツした手は本当に暖かくて。


「・・・この手で、神楽ちゃんや・・・・・定春や・・・・・新八君を守っきたんですよね・・・」


少しだけ、強く握り締めた。
銀時がそれに答える事は無いが黙っての言葉に耳を傾けてくれていることが、その手から伝わる。


「・・・・私の事も・・・この手で・・・・背中を押してくれたんですよね・・・・・」


前に進む勇気をくれた。
厳しい言葉だったが、それは優しいからこそできる事。



「・・・・・・私は・・・・、そんな・・・・・・・・・」


銀さんの手が大好きです。


そう、言葉に出来たのかどうかなど、にはわからない。
そのままは眠りに堕ちてしまった。



「おいおい・・・・好きなのは銀さんの手だけですかー? コノヤロー」



少しだけ悔しいと思ってしまった銀時は、そんな気持ちを誤魔化すようにして幸せそうな顔をするの頬をフニフニとつつく。
仕返しだと言わんばかりに銀時は外れない手を掴んだまま、片手で衝立を避け自分の布団をの布団にぴったりとくっつけてそのまま潜り込み眠った。

次の日。
朝一にが驚き金魚のように口をパクパクとさせるであろう姿がそこにあった。





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