果物の美味しい食べ方







のんびりと過ごす午後。次の番組が始まる5分前あたりからやっている通販番組。
そこではこれさえあれば絞りたて、新鮮フレッシュなフルーツジュースが飲み放題!と少々大げさだと思われるリアクションで商品を紹介していた。
神楽とはそれを見ながら「良いなー、絞りたて飲みたいなー」と二人でちらりと銀時を見やる。
だが視線に気付いているだろう銀時は一瞥もくれない。そんなもの買う余裕がないのは解っているが、魅力的な事は確かだ。
懲りずに視線を向けているとイライラしてきているのが手に取るようにわかる。

「・・・・・・・・・・・・・・うちにはそんな余裕ありません」

「「えぇー」」

「えぇー、じゃない!つか、家は絞るような果実もなければ搾り取れる金すらねぇんだよ!」

悲しいかなそれが現実。
分かってはいるが、その場のノリというものがある。
子どもじみてはいるがたまには良いだろうと思いながら、は神楽と一緒にブーイング。
その様子に呆れ半分苛立ち半分。銀時はあからさまな舌打をした。

「あーあー、そんなに飲みたきゃ金持って来い金! 話はそれからだ!」

絶対不可能だろうと思える事を言ってやれば頬を膨れさせるばかりで、それ以上なにも言ってこなくなった。
ちょろいもんだと思いながらも、内心実は銀時も飲みたかったりもする。
だがここは我慢してこそ大人ってもんだ。そう自分に言い聞かせ、またジャンプの続きを読もうとした時、買物に出ていた新八が帰ってきた。

「ただいまー」

「「「おかえりー」」」

「皆、これ見て下さい」

良いながら新八がテーブルの上に置いたのはフルーツセット。
籠の中に綺麗に配置されたそれは、見るだけで高級感溢れていた。
しかも普段お目にかかれないようなメロンまで入っている。

「新八君どうしたのこれ!?」

「実は今日買物したレシートがくじ引き券になってまして、くじを引いたらこれが当たったんですよ」

「流石だ新八!」

「やるな新八!!」

「最高新八君!!!」

三人からの想像以上の賛辞に驚きながらも照れる新八は、早速何か食べますかと聞けば三人同時に発せられたのはただ一つの答え。

「「「絞りたてのジュース!!!」」」

答えを聞いてじゃあ早速。そう思った矢先に問題にぶつかった。
この家にはジューサーなどといった洒落たものなどなければ、絞るような機械もない。
一体どうやって作ればいいのか考えたが、どう考えてもこの家の道具だけで作れる代物では無い。

「・・・・道具がないんで、バナナオレにしますか?」

「えー・・・・」

珍しくいの一番で不満を漏らしたのはだった。それほどまでに飲みたいのかと思ったが口にはしない。
銀時は徐に台所へ行くとボールを持ってきた。そして片手には泡だて器。
まさかとは思ったがそれでやるつもりなのかと聞けば、迷いなく頷く。

「いくら何でも無理ですよ! 泡だて器の方が駄目になっちゃいますよ! そもそも絞ってないし!」

「じゃあすり鉢ネ!」

「それもっと違うよ!それじゃ絞りじゃなくなっちゃうでしょ!」


―― バン ゴシャ


三人のボケと突っ込みの応酬の横で、何時ぞや聞いたことのある効果音。
恐る恐る見ればがまたりんごを握りつぶしていた。

ちゃん何やってんのー!!??」

「いやぁ、素手で絞れないかなーって思ったんですけど無理でした。そもそも私、握りつぶす事は出来ても絞る事はできないんですよね」

失敗!と笑顔で誤魔化そうとしているがその右手に誤魔化しきれない現実がこびり付いている。
大体素手でどうにかしようとする発想事態が間違っていることに気付いていない。

「あ、あれー。銀さんの気のせいかな。普通女の子って素手でりんご握りつぶさないよね。絞ろうとも思わないだろうけどさ。
 それでも普通逆だよね。絞る事はできても握りつぶせないって言うのが正解じゃ無いの? 何? 俺の人生何か間違えた?」

「銀さん、これが現実です。受け止めるしかありません」

「さすがアル!その発想いただきヨ!」

途方にくれる二人をよそに、神楽は嬉々として同じ過ちを犯そうとしている。
それを必死に止める二人の苦労など知らず、は「次はもっと加減して・・・」などというから始末に置けない。
ドタバタと激しく果物の取り合いをして30分。漸く落ち着いた4人は改めて考える。
どうやって、この果物を食べるか。
一見するとくだらない事に真剣なようだが、4人にとっては滅多に食べれない果物まであるのだから、より一層おいしい食べ方をしたいのが本音だ。
新八はとりあえず他の買ってきたものを冷蔵庫に入れると言ってその場で中身を取り出す。
色々と安売りしていたものや、値引き品のものやらが目の前に並べられる。その中、が眼をとめたのはヨーグルト。

「ねぇ、新八君。これは?」

「ああ、それは安かったんでついでに買ってきたんです。銀さんに頼まれたプリンが売切れだったんで」

「何!? プリンなかったのか!!」

なんだよそれ!置いとけよな!!と新八に言っても仕方がないのに詰め寄っている。言わば八つ当たりだろう。
その横ではヨーグルトを見て少し考えていた。

「銀さん。この際、絞りにこだわるのやめましょう」

元々絞りたてなど無理な話だ。そう言いながらボールの中にヨーグルトを流し込んでいった。
何を作り出したのかと覗き込んでいれば、台所からおろし機を持ってくる。

「すりおろしりんごのヨーグルトとバナナオレにしましょう。それで良いですよね?」

それで妥協しなければ何時までたってもこの果物を食べる事はできない。
そう言えば他の三人は少しだけ考えて、それでもいいかと納得する。そもそも絞りたてに無理にこだわりすぎていたのだ。
の行動を発端に、皆がそれぞれ思い思いの作業にはいる。
神楽はボールをおさえはその中にりんごを摩り下ろし、銀時はバナナを切ったり新八は牛乳を用意したりと、気付けばこだわりにこだわって銀時はお手製のプリンまで作るほど。
最初の望みのものは作れなかったが、目の前に並べられた物を見ればそれだけで満足だった。


4人で楽しく作れた。それが何より美味しい食べ方だとは作ったりんごヨーグルトを堪能しながら、こっそりと別の幸せに浸っていた。





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