酸いも甘いも







珍しく仕事がたて続きに入り、それも多めの報酬を頂いた事で万事屋の預金通帳には今までに無い金額が入っている。
その通帳を握り締め玄関で靴を履こうとしている銀時と、その後頭部を鷲掴んで阻止するの攻防が玄関先で静かに繰り広げられていた。



「あの、ちゃん・・・?」

「銀さん、通帳持ってどちらへ?」

「ちょ・・・ちょっとそこまで・・・・」



どこかで聞いた事のある台詞を口にする引きつり笑顔の銀時と、笑顔のでは様子が対照的だ。
聞かずとも実際はは銀時がどこへ出かけようとしているのか予想できた。
昨日仕事の合間にたまたま出会った長谷川にパチンコ屋に新台が入ったなどと、万事屋の家計に嬉しくない情報をもたらしてくれたのだ。
まったく余計な事をしてくれると思いつつもその時は仕事だからと銀時も素っ気無く返してしまう。
だがその素っ気無さが逆に妖しかった。ここで一つ、話しに食らいついていれば或いはを誤魔化せたかもしれない。
平静を装ってその実、行く気はあっただろう。しかしその時は生憎仕事中。そこまで銀時は不真面目でもない。
ここで頑張って金が入れば、パチンコに行く資金もさらに増えるだろうと踏んでの態度だった。
見通していたが玄関を出ようとしていた銀時を静止する事で何とか阻止する事は出来たが、まさか通帳ごと持っていこうとするとは
流石にそこまでは考えていなかった。自分の浅はかさに溜息が漏れる。


「大丈夫だって! 今日はなんか出る予感が・・・」

「それは予感であって確証じゃないでしょ。確実性に欠けたそんな物の為に、万事屋の家計をゼロにするつもりですか?」

「そりゃ一発で当たるとは思わねぇよ。ちょっとだけ下ろして、負けたらまた少し下ろして再挑戦して・・・」

「そして最後には結局ゼロに近しい数字になるのがオチですよね」


にべも無く言い切られてしまった事で口篭もってしまう銀時にもはや勝ち目などなかっただろう。
ここでもう一押しだとが中身を十倍にして帰ってくるなら話は別だと言えば、その目に影が落ちる。
漸く諦めたかと思った一瞬の油断。その隙を突いての手からすり抜け一気に玄関へ走り出そうとした。


「見てろよ! 俺も男だ! 十倍だろうが二十倍だろうがやってやらァァァァあ゛ッッッ!!


あと数センチで扉に手をかけると言った所まで来てに捕まってしまったあとは、情けも容赦もなくその手に力を込められ一気に意識は暗転。
音を立てて倒れた銀時を見下ろしながら深い溜息をつき、両足を掴み引っ張りながら居間へと戻っていった。

暫くして、後頭部に残る鈍い痛みと同時に湿ったような少し重い布の感触に気付き目を覚ました。
ソファの上にうつ伏せで寝かされ、どうやら濡らしたタオルを乗せてくれていたようだが、そんな優しさをくれるぐらいならば最初から何もしないで居て欲しいと
けして口にはしない文句を脳内だけで吐き出した。体勢をそのままにしてその位置から見える時計を視界に入れれば一時を示している。
玄関先のでの攻防戦は十時頃だったはずだと思い出せば、どれだけ自分が気を失っていたのかを知ると同時に、空腹を訴えかける腹の虫が鳴った。
まるでタイミングを見計らったかのように鼻腔を刺激する濃厚な香りに無意識の内に鼻を引くつかせる。
台所から湯気を立たせた皿を二つ持ってきたがテーブルの上にそれを置くと、銀時が目を覚ましたことに気が付きフォークを差し出しながら声をかけてきた。
起き上がり受け取って改めて皿の上を見ればミートソースがたっぷりのパスタ。昨日神楽がたまには食べたいと言い出し買ってきたものだ。

肩を並べてソファに座りながら少し遅めの昼ご飯を食べ始めた二人は暫し無言のまま、居間にはフォークと皿の微かにぶつかる音だけが響く。
不意に銀時がの顔を見た瞬間、思わず口に含んだ物を全て噴出してしまいそうになった。
突然の異変に不思議そうな顔をしながら咳き込むその背中を擦っていれば、苦しそうに口の中の物を飲み込んだあと
勢いよく振り返るとものすごく呆れた顔をしながら、の口元にティッシュを押し付けグリグリと遠慮も無く拭きはじめた。


「ぶっ、ちょ、むー・・・!」

「はいはい、大人しくしろー。つーか、ちゃんは子供ですか? 口の周りソースべったりつけて・・・」

「・・っは、・・・しょうがないじゃないですか。どう頑張ってもついちゃうんですよ!」


は正直食べ方が下手である。
行儀が悪い、と言うわけではなく本人は一生懸命綺麗に食べようと努力するが、それがいつも空回ってしまうのだ。
シュークリームを食べれば最後の方でクリームが生地からはみ出して丸ごと口に放り込む羽目になるし、ケーキも途中で横倒しになってしまう。
豆腐も箸で掴もうにも最後には粉々になってしまい結局レンゲの世話になる。
今のパスタにしても、ソースが口の周りにつく原因はフォークで巻く時点で既に大変な状態になっているためだった。


「どうしてそんなに巻けるんだよ。フォークの先端がまん丸じゃねぇか。むしろそっちの方が不思議だよ」

「それはこっちの台詞ですよ! 何で銀さんはそんな綺麗に少なく巻けるんですか!?」


信じられないといった顔で見るに少なく巻く方法をそれとなく教えながらも、やっぱり上手くいかず四苦八苦しながらようやく昼食が終わったのは一時半を過ぎた頃だ。
は開いた食器を重ね台所に行き、暫くすれば水の音が聞こえ始める。
ソファに仰け反りながら満腹感を噛み締めつつもこれで最後にデザートなんかがあったら申し分ないのだがと思いながら
楽しみにとっておいたアイスは確か昨日の夜に神楽に奪われた事を思い出す。
一気に気分が沈んだが、が戻って来て持っていた皿を目の前に差し出された事でその機嫌も元に戻ってしまう。


「みたらし団子じゃん、どうしたわけ?」

「銀さんが気絶してる間に買ってきたんですよ」


パスタを作る前、冷蔵庫を開けたところで昨夜のアイスの出来事を思い出したは、また甘味が無ければイライラするだのなんだの言って面倒な事になりかねないと
銀時がまだ目を覚ましていない事を確認すると大急ぎで大江戸ストアまで買いに行ったのだが、ただ買うだけで無く確り見切り品を探していた辺りが流石だろう。
そんな真実など知らぬ銀時は喜んで一串掴むと遠慮なく口にするが、そのペースは思った以上に速い。
一つ口に入れて少し噛んだ後、すぐに二つ目、三つ目と食べていけばあっという間に一本を平らげてしまった。
本来なら一人一本計算なのだが、本人は自覚があるのかどうかは知らないがこうも幸せそうな顔をして食べられてしまっては自分の分もあげたくなるというもの。
良かったら、と差し出せば喜んで手を伸ばしてくる銀時。しかしその手はが差し出した皿をよけた事で空を切る。


「・・・何の嫌がらせですかコノヤロー?」

「銀さん、とりあえず食べる前に」

「は、な、にっ!? ぶふっ」


さっきのお返しと言わんばかりに今度はが銀時のみたらしで汚れた口の周りを少々乱暴な手つきで拭けば、暫くの間は大人しくされるがままになっていた。
拭く合間に先ほど銀時に言われた言葉をそっくりそのまま返せば、「甘味を前にして大人ではいられない」などと開き直られてしまう。
呆れ顔のまま拭き終われば避けた皿を差し出すと、すぐにその上から団子はただの串へと見事なまでの早変わりを見せてくれた。
皿を片付け水につけ置いていたパスタの皿も一緒に洗い終え居間に戻れば、なぜかそこに銀時の姿はなかった。
外に出た様子もなかったし厠へ入った気配もない。あとは和室だけだと襖を静かに開ければ、日向になった場所に寝転がる背中が視界に入る。
目の前で座ってこのまま寝たら風邪を引くと言っても微動だにしないどころか目も開けようとしない。
完全に寝に入ってる様子に苦笑を浮かべ何か掛けるものでも、と立ち上がったは突然腕をつかまれ引っ張られてしまった。
倒れた衝撃はなく、ただ気付けば抱き枕のように抱え込まれている状況に照れと気恥ずかしさと疑問が同時に浮かび上がり
混乱した様子で必死に銀時へ離してくれと呼びかけるがまるで聞く耳を持ってはくれなかった。
最後には疲れ果てて脱力仕切った所で抱えなおされ、本格的に寝始めようとする銀時に最早何を言っても聞きはしないだろうと諦め
そのまま静かに横になって居れば次第にやたらと高い体温と日向の暖かさと満腹感が相まって、目蓋が重く感じられてくる。
本能のままに目を閉じてしまえば眠ってしまうまでの時間などものの数秒だ。

完全に昼寝してしまってから暫く経ち、定春の散歩にいっていた二人が帰ってきた。
居間に入るがあまりの静けさに二人して首をかしげ、たぶん和室だろうと呼びかけながら襖を開けた所で眠った銀時達の姿を見つける。


「二人だけズルイヨ。私も寝たいアル」

「まあまあ、たまにはいいんじゃない? でもこのままじゃ風邪引いちゃうよ」


やれやれ、といった風に起こさぬようそっとタオルケットを掛ければ静かに居間へと戻っていく。結局そのあと銀時とが起きてきたのは夕方近くだった。
そしてそのツケは夜になって回ってくる事になる。
電気を消した静かな和室の中、衝立を壁に布団を並べて眠る二人の目は冴えていた。


「・・・銀さん、雀の囀りが耳に痛いです」

「そりゃあれだ、幻聴だ。耳塞いどけ」

「・・・窓から差し込む朝日が眩しいです」

「それは幻覚だから。見ちゃいけなもんだから目を閉じて布団に潜り込んどけ」

「・・・銀さん・・・・・・眠れないです」

「言うな。俺だって、寝たくても寝れねェんだよ・・・・!」


結局は一睡も出来ぬまま朝を迎えその日は二人仲良く、目の下にくっきりとした隈を作ってソファでグッタリしたいた。
同じ過ちは繰り返してなるものかと必死に迫る眠気の波との闘いに挑む、そんな一日となってしまった。





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「たとえば、君を想うこと」の矩月ゆい様への相互記念夢です!!
銀さんでほのぼのとリクを頂き、あれやこれや悩んだ結果書きたい物を詰め込んだからとんでもないものに仕上がりました・・・!
どうやら私はギャグを取り入れないと話しが進まないようです(え)
おかげでできた物を見てみるとほのぼの2に対してギャグが8の割合な気がしてなりません・・・!
お待たせした挙句にとんでもなく的外れな感じのものが仕上がって本当にスイマセン・・・!
とりあえずヒロインの設定は連載でもそれ以外でも構わないと言われたのですが
ここはやはり連載ヒロインで!といきごんでみました。たぶんそれがギャグの要素になった一番の原因かもしれない・・・・orz
本当にリクにあっているのかどうかわからないようなもので申し訳ありません・・・!

相互本当にありがとうございます!これからも宜しくお願いします〜vv


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