弁当サバイバル







高らかに鳴り響くチャイムの音を聞き、今まで授業をしていた教師が教室をでれば
カバンを探り中から弁当を出す者や、財布を持って売店へと向かう者と大きく分けて二つの動作を行う生徒たち。
四時限目が終わり、今は昼休み。
いつもは破天荒な行動を起こしたり、言動をしたりするZ組の生徒もそれは変わらない。
もまたその一人である。


「おっと、お弁当の前に手を洗わなきゃね」


小さい頃から厳しい躾をされて、というよりも辛い思い出と身にしみた恐怖ゆえ、今でもご飯前には手を洗うのが習慣となっている
厳しい母親はまだが幼少の頃、もしご飯前に手を洗い忘れたなどとなれば本気でご飯抜き、若しくは量を少な目という
鬼のような所業を平気でしてくれたおかげである。
たとえ母の目が無いからといって、それを怠れば一体どんな恐ろしいことが起こるのかと今ではもうすっかり癖のようなもの。

一通り手を洗い教室に鼻歌交じりで戻ってきたは、待っていましたと言わんばかりにカバンに手を突っ込み弁当の包みを探した。
だがいくら探れど、弁当箱独特の硬い感触はなく。
首をかしげおかしいと思いながら中を覗けば、朝も確りと三度は確認した弁当の姿は消えていた。







「私の弁当取った奴誰だァァァァ!!!!」







昼の穏かな教室に突然のの絶叫。
しかし元から騒がしい教室である為、誰一人それに驚く事はなく、またか・・・、で終わっている。
肩を震わせてあからさまに怒るの後ろから、弁当の中身から視線を逸らさず淡々とした言葉が注がれた。



「高杉のヤロウがが手を洗いに行った隙に持ってたぜ」


「おい総悟。お前はそこまで見て何故止めない!」


「そんなの決まってまさァ。放置しておいた方が他人の不幸はより深みを増して面白いからじゃねーですかィ


「テメェェェェ、後で覚えておけよチクショー!! 高杉ー! 高杉どこだー!!!



バタバタと騒がしく教室を出て行ったは、そのまま高杉を探しに廊下を走った。
その足は迷いなく階段を上り、向かったのは屋上。
天気のいい日は屋上で昼を取るという事をリサーチ済みのはただ只管その扉に向かって駆け上がる。
勢いよく扉を開け、高杉の名を高らかに叫んだが返ってきたのは誰かの言葉では無かった。

激しく壁を打ち付ける雨粒は、横殴りの雨らしく扉を開けたにも容赦なく降り注ぐ。
少し強めの風によって勢いよく開け放たれた扉は、また派手な音を立てて閉り、しばしの間は呆然と立ち尽くした。



「・・・そうだよ、今日は雨だったんだよね。弁当取られたショックでさんすっかり忘れてたよ。あっはっはっは・・・・・。
 つーか、制服濡れたりしちゃってなんか寒いって言うか、むしろ腹寒い。ひもじい。高杉絶対ェ許さねェからな・・・」

「そいつァ、おっかねェな」

「・・・・・・オイ、コノヤロウ? テメーは何でこんな所に居やがりますか?」

「昼飯くってるからに決まってるじゃねーか。バカか?

「バカはお前だ、それは私の弁当だろ! 返しやがれェェェ!!!」



後ろを振り返れば、先ほどから居ましたと言う顔で壁に背を預け座り、の弁当を広げて遠慮なく口に運んでいる高杉が
いつものようにふてぶてしい顔つきでの目の前でさらにおかずを口にする。
どうやら本当に先ほどからいたらしく、既にの弁当はご飯が半分なくなっていた。
返せと口で言って返す男ではない事など、はよくわかっている為他の方法は無いかと思案する。
その間にも目の前で高杉は次々とおかずを平らげていってしまう姿は、腹立たしい以外の何者でもない。


「ちょ、それ私が一番楽しみにしてた・・って、あー! よく噛まずに飲み込まないでよ!
 もっと味わって食べなさい・・・って違う! 食べんな! 返せ!!」

「五月蝿ェよ。飯時は静かにするもんだぞ。それに食えと言ったり食うなと言ったりどっちだ?」

「誰がやかましくさせていると思ってんだ!」


意味があるようでまったく無いそのやり取りを繰り返している間にも、弁当はどんどん空に近くなっていく。
こうなればおかずを一品だけでも死守しなければ、自分の腹の虫は色んな意味で治まってくれはしない。
そう思った瞬間にが取った行動は、流石の高杉も予想していなかったらしい。


「・・・おい、。テメーは何してんだ?」

「・・・っ、何って、何? ・・・あー、おいしい、やっぱこれはこの味付けじゃなきゃ・・・よし、もう一口来い! また奪って、否、返してもらうから!」

「・・・やっぱりバカだろうお前。元から知ってたが改めて再確認した」

「なっ、どういう意味よそれ!!」


食べられる前に食べてしまえばいいと、なんとも単純な答えを導き出したはそれ以上深く考えず
高杉が箸でおかずを掴み口に運ぼうとした瞬間、顔を近づけ横から食べてしまったのだが箸自体はそのまま高杉が持っている。
それゆえに、傍から見れば餌付けにも見えなくもなく、見ようによってはよくある「はい、あーん」の状況。
だがは漸く口に出来たお昼に思考は溶けきり、ただ只管目の前の弁当を横からかすめ取る事ばかりを考えている。
深い溜息をついて高杉は食べかけの(の)弁当を置くと立ち上がり、それを目線で追ったは突然視界が覆われて驚く。


「うわっ、ちょ・・・ナニコレ!? って、あれ、高杉? なに、返してくれるの?」

「俺の口には合わなかったみてェだからな」

「おい、半分以上食べられてるんですけどこれ。なのにそんな文句言うわけ?」


突然頭に被せられた高杉の学ランを乱暴に払いながら、階段を下りていく姿をただ見ていた。
一体何がしたいのかわからないだったが、とりあえず昼ご飯が返ってきたのだからそれで良いだろうと、食べかけの弁当に手をつけようとする。
その時下の踊場で足を止めた高杉が、を見上げるように顔を向けている事に視線で気付き、何だともそちらを見れば突然鼻で笑われた。


「教室戻るときにソレ羽織ってきた方が良いぞ」

「は? え、ちょ、意味判らないんですけど。ちょっとー?」


真意を口にせずそのまま高杉はそこから去ってしまい、は弁当を手にして首をかしげた。
一人になった踊場で、先ほど雨に打たれ少し体が冷えていた事に気付き微かに身震いをした時はじめて気付く。






「・・・・・・ぎゃー!!!!!」






セーラーが雨に濡れて透けていたという事に。






一応弁当を平らげた後、癪だが学ランを羽織って来たとき以上の速さで教室へ戻った
入った瞬間高杉目掛けて空の弁当箱を投げつけようとしたが、それは大きく外れて土方の後頭部にクリーンヒットし
その後教室内がまるで戦争のような荒れようになったのは当然の結果だろう。





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『FREE』の高橋桐奈様へ相互記念捧げ夢でございます!!
リクの3Z高杉ということで、ものすごい張り切りようで書かせて頂きましたっ!
つーか、お題と共になんで高杉とヒロインってこんな状況なんだろうか・・・?とか思うんですがね
こういったネタの方が正直浮かびやすいんです。
個人的に、羽織った学ランから指先しか出ていないとか萌えます(聞いて無いから!)
相互リンクありがとうございました!!
こんなものでよろしければどうぞお納め下さいませ〜vvv


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