02:手作り弁当







鳴り響くお昼休みを告げる鐘の音。
教室や非常階段付近など、決まった場所へ決まった相手とお昼を持ち向かう生徒たち。
新八もまたその中の一人だった。
前までは教室でお昼を食べていたが、たまにおかずの取り合いだなんだで乱闘騒ぎになってしまう。
出来れば昼ぐらいは平穏に過ごしたい。そう思ったところでどこかいい場所が無いかと考えても、いざ思いつく場所などありはしなかった。
そんなおり、新八へ声をかけたのは
この時期なら裏庭でも充分に暖かく、静かにお昼を食べるのには最適だと教えてもらった。
以来、二人はそこで静かにお昼を一緒に食べるようになったが二人の関係は何らかわりはなかった。



「うふふー、やっとお弁当だ!」

「随分楽しみだったんだね」

「うん。今日は大好きなおかずを入れてきたのさ!」



満面の笑み浮かべて答えるはソワソワしながら弁当箱の蓋を開けると、より一層目を輝かせる。
自分で作ったとはいえ、やはり好きな物を一品でも入れていると気持ちは違う。
そんな無邪気なの様子を見ながら新八も蓋を開けた所で動きが止まった。
まるで石化したかのようにピシリと固まった後、口元を引きつらせながら深い溜息と共に項垂れる。
まさに明と暗。二人の様子はその一言で表せる。



「ど・・・どうしたの?」

「いや、うん、予想は出来てたんだ・・・だけど、もしかしたら、って期待してた自分が少しでもいたことに今激しく後悔したよ・・・」

「・・・・・・・妙ちゃんか・・・」

「何がいけないんだろうね・・・なんで卵焼きだけこんな悲惨な目にあうんだろうね・・・」



箱の中身は原形すら留めていない黒い、何かの物体の塊ばかりだった。
きっとおかずに卵焼きでも入れていたのだろう。
しかしなぜか周りのご飯やおかずまでも侵食したかのように、全ては黒く染まりある意味で言えばブラックホールである。
あまりの悲惨な状態の中身と新八の項垂れように、半分こするかと問うが、こうなることは既に予想済みだった新八は保険を持っていた。
売店でパンも買っておいたのだ。おかげでお昼を食いっぱぐれるということは今のところ無いが、かわりに貴重なお金が無くなっていく。
クリームパンがなぜか少しだけ塩辛い味がしたような気がした。



「・・・ねぇ、やっぱりパンを買ってるとさ、お金貯まらないでしょ」

「そうなんだよね・・・もうすぐお通ちゃんのアルバムも発売だって言うのに・・・ああ、どうしよう!」

「それにお弁当だって結局はその一食分おかずが無駄になってるし・・・色々勿体無いよ」



の言う通りである。しかしだからと言って、お妙にお弁当はいらないと言えない。それは既に実行して、見事に失敗したからだ。
作ってもらうのは悪い。何なら自分が、とどうにかして作ってもらわずに済むように努力したのだが最終的に
「私の作った弁当が食えないって言うの?」と凄まれてしまった。
もうどう足掻いても無理だと考え、今ではお妙からのお弁当を受取る時にボロがでないよう努める事しかできない。
項垂れながらパンをモソモソ食べる新八の横では何かを考える仕草をする。



「ねえ、なんだったら私が明日からお弁当作ってきてあげようか?」

「・・・え? えええぇぇぇぇ!!??」

「そ、そんなに驚かなくても・・・えっと・・・・嫌?」



首をかしげながら聞かれた言葉に新八はそんな事は無いと、首がもげるのでは無いかというほどに激しく首を振った。
そもそもいつものお弁当は美味しそうだ。それが食べられるならばむしろ喜びの方が大きい。
だがそんな事を言うほど度胸も無い新八は喜びと同時に遠慮の気持ちまでが発生してしまう。
よかった、と笑顔を見せるだが新八が作ってもらうのは悪いと断ろうとする。



「一人分も二人分も大差ないし、それに晩御飯の残り物とか使うから簡単だよ」

「そ、そうなんだ・・・・・・あ、あの・・・本当にいいの?」

「全然構わないよ! あ、でも新八君の嫌いな物とか教えてもらえると助かるんだけど・・・・って、あれ?」



突然の校内放送が流れた。
普段ならば呼び出されるような覚えも無いので聞き流すが、油断している時に限って呼び出されるものである。
いつものやる気の無い声で流れた銀八の声で呼ばれたのはの名前。
なんだろう、とキョトン顔で放送が終わるまで一通り聞くと立ち上がり、スカートについた汚れを叩いた。
今だ呆けている新八へ、あとで教室に戻った時にでも嫌いな物を教えて、と足早に去っていく。



「・・・ちゃんのお弁当・・・いや、勘違いするな志村新八。これはあれだ、友達として心配してくれてだよ。
 そうそう、ここで勘違いしたらただの痛い男だ。そう、これは友情。友情だから落ち着け僕の心臓ォォォォォ!!!!」



別にそう言う気が元からあったわけでは無い。普通には友達として、クラスメイトとして接していた。
しかし突然のからの申し出と付加された仕草など相まって、新八は色々な意味でドキドキしていた。


勘違いをするな、と言い聞かせる傍らちょっと勘違いもしてみたい年頃の、ある昼下がりの出来事。





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