01:おねだり







山崎は今、自室で腕を組み悩んでいた。それはの事である。
一月ほど前。漸くとれた休みの日に一緒に出かける約束をしていた。
しかしそういった時に限って攘夷活動を行われる為、休みを返上して監察の仕事をすることになってしまった山崎は
ただ只管申し訳ないとに謝る事しか出来ない。
真選組の隊士が彼氏というだけあって、そういった不定期に舞い込んでくる突然の事態や休みになれているとはいえやはり楽しみにしていたのも事実。
そんなの気持ちを汲み取って、今度会った時に何かプレゼントしてあげる、という約束をしたのだ。



「一体何をあげればいいんだろう・・・」



約束はしたものの、実の所何がいいかまったくといって良いほど決まっていなかった。
花などでもいいが、どうせなら形に残るものがいい。だがはけして高価な指輪が欲しいだのいう子ではない。
ならばもっとお手軽な値段のアクセサリーなどがいいが、実はは肌が少し弱い。
下手な金属ものを身に付けるとはだが荒れてしまうと前に言っていた。

結局床に就く時間になってもいいものが思いつかず、当日本人からほしい物を聞こうと言う結論に至り布団にもぐりこんだ。
しかしここで一つ、山崎はミスをする。それに気付いたのは朝目が覚めたときだった。







「寝坊したー!!!」



ああだこうだと悩みすぎてうっかり時計をセットするのを忘れてしまった。
目がさめ時間を確認した瞬間。あれほど全身の血の気が引く思いをしたのは久しぶりだなどと、考えている暇はなく。
素早く着替え簡単に身を整えると、即行での元へ向かう。途中、信号待ちになってしまった際に携帯を開けば着信が数件。
どれもからのもので一瞬かけようかと思ったがそれよりも、信号が青になった後に走っていった方が早いと、携帯を懐に仕舞った。



「・・・」

「ご、ごめん! 時計をセットし忘れて寝坊しました! 申し訳ない!!」



待ち合わせ場所につけば当然、は一人壁に寄りかかりとてもつまらなさそうにしていた。
目の前まで一気に走り寄り、腰を九十度に折り曲げて声高に謝罪する山崎。対し、一瞥をくれるだけでは口を尖らせて押し黙る。
二人の様子を周りはまったく気にしてはおらず、約束の時間に遅れた彼氏と待ちぼうけを食らわされた彼女、という図式が出来上がっているだろう。
まったくもってその通りである。からの言葉はまったくなく、山崎は折り曲げた腰を起こす事はしない。
暫くして漸く山崎を見たはとりあえず、いつまでその体勢なのだと問えばやっと体を戻した。



「・・・電話入れたのに、全然出ないから心配した」

「うっ・・・」

「でも、ちゃんときてくれたから、いいや。謝ってくれてるし。それに、別に悪気は無いんでしょ?」

「もちろんそんなつもりは無いよ!」

「うん、ならいい。よし、早速お買物いこう!」



山崎の間髪入れずの返答に気をよくしたは、そのまま手を引っ張り歩き出した。
引っ張られていたのは最初だけで、次第にそれは手を繋いで歩く形になるが二人の間に気恥ずかしさなどは見えない。
暫く歩いていた時、山崎は今日の寝坊の原因の一つであった、プレゼントについてに聞く。
一方、突然『何が欲しい?』などと聞かれて驚いたは、一瞬何のことだかさっぱりわからなかった。
しかしすぐに山崎から何がいいか思いつかなかったという事と、のほしい物を買ってあげようということになった事を伝えれば
少しだけ考える素振りをすると、何かを閃いたような顔をする。



「退! こっち、こっちなの!!」

「え、ちょっとちゃん!? そんなに急ぐものなの!?」

「そうじゃないの! でもこっちなの!」



少し興奮気味のの言葉は少し乱れている。
それを気にする事もなく、人込みを縫うように早歩きで抜けていくと着いたのはスポーツ用品店。
暫しその店の看板を見上げていた山崎はそのままに腕を引っ張られ店内に連れていかれる。
中に入って周りを見回せば、目的の物を見つけたのだろう。真っ直ぐとそちらへと向かった。



「これ! これが欲しいの!」

「え、これってミントンのラケットじゃ・・・」

「そう! あのね、退と一緒の奴が欲しい!」

「俺と一緒の? でも俺のなんか安物だし、もっといいのが・・・」



あるはずだ、と続くであろう山崎の言葉はそこで途切れる。
山崎の普段使っているミントンのラケットと同じ奴を抱えながら、は先ほどとは様子が違う、少し拗ねたような雰囲気で
口を尖らせ俯き加減で何やらボソボソと呟く。
静かな店内で達の他に客など居ない。そのおかげか、呟いたの言葉は確りと山崎に届いた。



「・・・退、仕事が仕事だからお休みは簡単に取れないし、不定期だし。休みが取れても、この間みたく急に呼び出しかかっちゃうし。
 本当は一緒にずっと居たいよ。でも、あんまりわがまま言うのも嫌なの。だからね、せめて退と同じ物を持っていたいなーって・・・」



ダメかな?と首を傾げなら問われてダメといえる奴がいるなら見てみたいものだ。
山崎はそう思いながら、の持つラケットを受取りレジへと直行したのは言うまでもない。


次に休みが取れたら、今度はどこか広い場所で二人でミントンでもしよう。


そう約束をした二人は、はにかみながら子供のようにそっと小指を絡めた。





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