08:やきもち







「ねえ、聞いてるの銀ちゃん?」


「あー、聞いてる聞いてる」



公園のベンチで銀時へ問えば気の抜けたあからさまに嘘と言える返答をされ溜息を漏らした。
は雨続きだったここ最近、やっと恵まれた晴天なのだから散歩にでも出ようと渋る銀時の腕を引っ張って外へ出てきたのだが
途中までは気のない返事をしてくるが機嫌が悪かったわけでは無い。
しかし何が原因なのか、突然気を損ねた様子の銀時はの制止も聞かずにさっさと前を歩いて行ってしまった。
名前を呼びながら必死に追いかけたがその足が止まる事はなく。
仕方なしにやっと追いつき腕を掴んだところで、今度は銀時の言葉も聞かず引っ張ってベンチに無理矢理に座らせた。
一体なんでそんなに機嫌が悪いのか問うが、先ほどのような返事ばかりでまともに会話が成立していない。


「もう! さっきから何なの! 気にかかる事があるなら聞けばいいじゃない!」

「別に何もねェよ」

「嘘! だったらなんでいきなり機嫌悪くしてるわけ!?」

「だァから言ってんだろ。俺は外に出るつもりなんて無かったんだって。
 それをオメーが無理矢理外に連れ出すもんだから・・・ 
ブッ!!


うだうだと文句を垂れる銀時の顔へ持っていたかばんを叩きつけは立ち上がった。
ずるりと落ちたかばんをそのままにして銀時はを見れば、思い切り睨みつけてくる視線とぶつかる。
だがそれよりも、落ちないように耐えて居るのが分かるほどに泣きそうな顔だと理解した次にはまずいと思ったが遅かった。


「何よ。私は、天気も良いしずっと雨続きで機嫌悪かった銀ちゃんのためにって思って、外に出ようって言ったのに・・・」

「や、。ちげーって・・・そう言う意味じゃなくて・・・」


自分の言葉に耐えていたものが少しずつ頬を伝って落ちてきてしまう。
それでも耐えようと必死だがそれは逆効果でしかなく、ボロボロと流れてきてしまった。
の様子に銀時は必死になって言葉をかけようとするが、その前にの言葉によって遮られてしまう。


「少しでも、・・ッ、気晴らししてくれればって思ったのに、ゥ、・・無理矢理だなんて・・・
グズッ・・・・嫌なら嫌って言ってよ・・・」

「だからな、そうじゃねェって・・・、俺はな・・・」

「違うんだったら・・・なに?」

「ウッ・・・・・それは・・・」

「ほら言えないじゃない! いいよもう! 沖田君でも誘って自棄酒飲んでやる!!」


言葉を詰まらせてしまった銀時にとうとうは怒り出す。振り返って走り出そうとしただったがそれは掴まれた腕で適わなかった。
掴まれたそれを振りほどこうとするが思いのほか強い力で掴まれてしまっているらしく無理だった。
離してと言うがそれも聞き入れず、逆に引っ張り込まれてしまう。つんのめり銀時へと倒れこんでしまったがそのまま抱きしめられた。
腕を突っぱねて逃れようともがくがまわされた腕に力を入れられ、は思わず息を詰めてしまい動きを止めた。
それを狙ってか、肩口に顔を埋めながら銀時は元々低い声を更に低くして囁くようにして言葉を紡ぐ。


「なーんで、そこで他の野郎の名前が出てくるわけ?」

「なんでって・・・・だって・・・」

「なあ。俺、最初に言ったよな? 俺は束縛するよって。独占欲強いって」


それでもいいって言ったのはお前だ。

掠れるほどに息が微かに混じったような声で囁けば、今まで突っぱねる形で置かれていた手の力が抜けて体全体の力も抜く。
少しだけ顔を離して視線だけ向ければの耳は赤く、顔はもっとすごい事になっているだろうと笑みを浮かべた。
先ほど泣いた事もあるだろう。それに離れがたいとも思いながら銀時は少しだけ腕の力を弱めるだけで抱きしめる事は止めなかった。
そのままの体制でから小さく先ほどと同じ質問をされたが、すぐには答えずに体を離すとそのまま二人でベンチへと座った。


「あのな、だから俺が機嫌悪かったのはアレだよ」

「・・・・何?」

「ここくる途中に、オメー何回男に声かけられた?」

「え・・・・?」


公園へくる道中、よく買物をする店の店員やバイト先によく来る顔見知りの客など、つまりは知り合いとよく出会った。
しかしそれは知り合いなだけで別段、いかがわしい関係では無いのだ。銀時の怒る理由がにはわからなかった。
だからと言って「なにそれ?」と返す事が出来ないのは、それすらも嫉妬の範囲内なのでは無いかと
考えの方向を改めた結果出た答えにやたらと納得してしまったからでもある。
それと同時に嬉しい気持ちも湧き上がり、どうしたらいいのかわからないのも事実であるがそれよりも。


「俺はな、オメーが外で歩くとそこらの男が声かけてくるんのが嫌なんだよ。それに笑顔で返事するオメーを見てるのも嫌だ。
 正直、の気持ちも笑顔も声も全部俺のもんだって言いたいんだよ、本当は・・・って、何ニヤけてんの?」


怖いんですけど。という銀時の言葉は聞こえなかった事にして、隣で口を尖らせて理由を言う銀時へ、はニヤけが止まらなかった。
束縛するならばしてもいいし、外に出さないというのならばそれも構わないと思ってしまう自分に気付いた事は言わないことにする。
それを言ってしまえばきっと調子付いてしまうだろうから、それはそれで癪では無いかというの思いなど知らず、
いまだに目の前でニヤけるに多少なりともビビリながらすぐに先ほどと同じ様な表情になったかと思えば、の鼻をつまんでそれを止める。


「何ニヤけてんですか、ちゃん」

「教えてあげません」

「ダメ、教えなさい」

「嫌」


あんな社交辞令な笑顔でここまで嫉妬してくれる男などどこに居るだろう。
それだけなのに、こんなにも自分は愛されているのだと確認できるのが嬉しくてたまらない。自分だけではなかったのだという事が何よりも嬉しかった。
言った事はないが、自分も色んなものに嫉妬してしまっている。
銀時にその気が無くとも、相手にその気が無くとも。銀時の周りには綺麗な女性がたくさん居る。
その中で自分を選んでくれた事が嬉しい反面、時折不安になるのだ。

何故、自分だったのだと。

こんな事を聞いてもいつもの調子で、いつもの口調でさらりと返してくれるかもしれない。しかしそれはそれで悔しい。
ならばここは意趣返しで、不意でもついてやろうか。


「銀ちゃん」

「んだよ」



「私だっていつも銀ちゃんの周りに嫉妬してるんだよ」



そっと耳元で掠めるように囁いてみれば、銀時は目を見開いての顔を見ようとするがそれよりも早く立ち上がりそこから離れてしまった。
今度は銀時がを追いかける番となり二人はそのままの流れで万事屋へと戻っていった。





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