07:身長差







その日は珍しく朝から万事屋としての仕事が入っていた。それも二件。
なんの天変地異だと、4人は慌てふためき何かのドッキリなのでは無いのかと疑ってかかっていた。
おかげで朝からテンションがおかしかったが、今は漸く落ち着きを見せている。

仕事内容は至極簡単なもので、一つは客の呼び込みのバイトとして人手が足りないから手伝ってくれと言うもの。
もう一つは老人の一人暮らしで身寄りもなく体力もあまりないため、片づけがなかなか進まないからその手伝いをしてくれというものだった。
呼び込みは開店したての甘味屋という事で、銀時が行けば8割の確立で甘味の誘惑に負けてしまうであろう。
そう予想した新八は銀時は片付けの方へと行ってくれと言えば、多少の抗議はあったものの渋々納得した。
一方神楽は自分が片付けに行くと言えば新八と銀時に即却下された。
たまに滞納した家賃分の働きをしろとお登勢の店の掃除を手伝うが、その度神楽は掃除という名の破壊活動を行っている。
本人は真面目に掃除をしようとしているのだが、如何せん勢いがありすぎる。

「そんな訳だから、オメーは新八と一緒に呼び込みの方行って来い」

「チッ、わかったヨ。、銀ちゃんをしっかり見張っとくアルヨ」

「見張るって何を?」

銀時はいい加減だったり不真面目だったりするところはあるが、受けた仕事はきちんとこなす。
何せ生活がかかっているのだから、やる気はともかくとしてサボるわけは無いだろう。
の思考を読んだかのように新八は眼鏡を怪しく光らせ、銀時を下から軽く睨みあげながら言った。

「片付けの際に見つけた甘味を盗み食いとかしないようにですよ」

「おい新八。俺を何だと思ってんだコノヤロー。いくら俺でも、他人のお宅の食器棚の団子や饅頭に手を出すわけねーだろ。
 冷蔵庫ん中のうまそーなチョコやプリンを食うわけねーだろ」

新八と神楽の発言に対しての抗議は墓穴を掘っていた。どうやら前科があるらしい。
が間髪いれず「前科持ちですね」と言えばもちろん反論してくるが、とりあえずそれは無視しさっさと依頼主の家へと向かって歩き出した
その後ろを慌てた様子もなく大股で歩いてくればあいた距離はすぐに縮まってしまい、今は隣を歩いている。
依頼主の家に着くまでの間に、何気なく銀時を見上げてみたがの方を見る事はなくただ真っ直ぐと前を見て歩いていた。
視線があう事はなく二人は依頼主の家へと着き、呼び鈴を押せば中から出てきたのは依頼人の老人。

「では案内するので、ついてきてください」

杖をつきながら広い庭の中を歩いていく老人についていき着いたのは小さな蔵。
どうやら片付けとは部屋ではなく蔵の中の事だったらしい。老人は頼んだといって家の中へと入っていく。
視線で追えば古書や壺など、部屋に飾ってあったであろう荷物が庭に敷かれたシートの上に並べられている。
老人が部屋の中から出したのだろう。出ている量から考えて何日かに分けて出しているようである。
半端では無い量を見て銀時とは、自分たちがやる蔵を仰ぎ見た。
部屋の中であれだけの量ならば蔵の中は一体どれだけの量なのか、不安になった。

「・・・うし、気合入れてやるぞー」

「・・・はーい」

言葉とは裏腹に、気の抜けた声音だったがそれには特にツッコミはいれない。
蔵の重い扉を開けると空気が流れた所為か誇りっぽい臭いが漂う。
中に入って見回せば、一体何が入っているのか分からない箱がうずたかく積まれ、奥には巻物なのか何なのか分からない物が並んでいる。
棚の隙間にも埃がすごい。軽く歴史を感じさせる量だ。
どれだけ手をつけずにいたのかまったく検討がつかないほどの様子に、一体どこから片付ければいいのか分からず途方に暮れた。
とりあえずは手前の方か片付けてしまおうという事になり、二人で手分けして中の物を一つひとつ外へ出していった。
外観は小さい蔵だったというのに出せども荷物は減らず、一体どこにどうやって入っていたのか不思議なほどの荷物が庭を埋め尽くしていく。

二人で手際よく運んだおかげか、半分ほど出し終わった頃には昼を少し過ぎていた程度だった。
意外と早く終わりそうだと思っていた矢先に、「休憩にしましょう」とお弁当を持ってきた老人の声がかかり二人は蔵を出た。

ブッ! おまっ、何だその顔! ヒゲできてんぞ!」

「そう言う銀さんこそ片目パンダになってますよ!」

暗い蔵の中では気付かなかった互いの顔を見て、二人で指をさしながら笑いあっていれば何も言わず老人が水の張った桶を持ってきてくれる。
しかし二人は去っていく老人の背中が小刻みに揺れていた事を見逃していなかった。

顔を洗いすっきりした所で縁側に座りながら出されたコンビニ弁当を食べると、改め手に持つの多さに驚く。
来た時はやたら広い庭だと思っていたが、こう荷物が溢れかえっていると狭く感じさせるから不思議だ。
いい加減いらない物などを処分しようと思っていたが、なかなか捨てるに捨てられず困っていたから助かると老人は庭に広がる荷物を見つめながら言う。
一つひとつに些細ながらも思い出があると語る老人の目は穏かだった。
あまり話す事は得意では無いのかそれ以上何かを語る事はなく、一息ついた所でまた片づけを始めた三人。
蔵の中のある程度の物は出してしまい、残った物で重い荷物は銀時が運び出しは掃除をしつつ棚の中の物を整理していく。
一際大きな荷物を銀時が外へと運んでいた時、は踏み台に乗って棚の上にある荷物をどかそうと試行錯誤していた。

「よっ、・・・ウッ・・・と、届か・・・・・、 あっ!!」

上に乗っていた陶器の花瓶を取ろうと必死になって背伸びしていたが、爪の先で花瓶を弾いてしまい大きく揺れた。
落ちると思った瞬間、必死に手を伸ばして取ろうとするがそれによってバランスを崩して踏み台から落ちそうになる。
花瓶の割れる音と落ちる衝撃を覚悟して目を瞑っただが、トンッという音と共に背中に温かい感触。
恐る恐る目を開ければ目の前には片手に花瓶を掴み、が倒れないよう胸元で受け止めている銀時の姿があった。

「大丈夫か?」

「は、はい・・ありがとうございます」

よォ、オメーはちっと自分の身長考えろ。届かねーなら俺を呼べばいいだろーが」

「ごめんなさい」

言いながら難なく上の方にあったものを掴み下ろしていく銀時をそのまま見ていただったが、その手にはどんどんと荷物が積まれていく。
ある程度乗せられた所で、さっさと外へ運んでしまえと言われヨロヨロとしながらも運び出した。
荷物は庭を埋めつくし運び出すのが終わった頃には既に夕方近く。捨てる作業はまた明日だと、その日はそれで上がる事にした。
帰りの道中、は徐に銀時の手を掴むと掌を合わせてくる。二人の手は第一間接ほどの違いがあった。

「銀さんの手、大きいですね」

「そうか? 普通だろ」

の突然の行動にも特に驚くことなくされるがままとなっている。
合わせた手を離して今度は手を繋ぐと、夕日に伸びた二人の陰も手を繋いだ。

「私もうちょっと身長ほしかったです。新八君ぐらいあれば、いちいち棚の上の物取るのに銀さんの手を煩わせる事無いし・・・」

「バーカ。俺はいいんだよそれで。俺を頼れ」

手を繋いだまま頭を小突かれてよろめくが、倒れる事は無かった。
二人は段々と沈んでいく夕日を背中に背負いながら、いつもよりもゆっくりとした歩調で歩く。

「それによ、この身長差がいいんじゃねーか」

「何がです?」

を後ろから抱きしめると、調度いい位置なんだよ」

「へー・・・・、へっ!?

受け流しそうになったがそれはならず、は銀時の言葉に驚き顔を横から見上げた。
してやったりといった顔をしながらニヤニヤと笑っている銀時はの様子に気付いていながら、更に言葉を続ける。

「こう、調度頭が俺の胸辺りにきてさ、緩く抱きしめると手が腰の位置になるからいいんだよ」

「んなっ!」

次々と銀時の口から告げられる互いの身長差の利点は、どう考えても銀時にとっての利点であり
聞かされているにとっては恥ずかしい事この上なく、耳を塞いでしまいたくとも繋いだ手がそれを許さない。
銀時か次から次へ聞かされる言葉に頬を赤く染めたは内心でひっそりと、その赤みを誤魔化してくれる夕日に感謝した。





<<BACK