登場が派手すぎます







注文を受けたは団子を入れた袋を片手に、スナックすまいるにやってきた。
裏口にまわれば、すでに顔見知りとなっているスタッフが応対したおかげで配達は滞りなく終え、蜜月へ戻ろうと表通りへ出たときである。
すまいるの正面玄関からものすごい勢いで「何か」が飛び出し、地面を重い物が擦れる音と共におりょうが仁王立ちしていた。
一瞬何事かと思ったが、おりょうの姿と飛び出したそれの姿を見てすぐに合点がいく。
どうやら地球に戻ってきた坂本が、性懲りもなくおりょうへと会いに来て、あまつさえ行き過ぎた求婚紛いなことでもしたのだろう。
お妙とはまた違った黒さを滲み出す微笑をたたえながら、口上ではマニュアルどおりに「またのお越しをお待ちしております」とは言うものの
その実、その背後にたたえたオーラが二度と来るなと暗に述べている。
しかし本音を言おうが嫌味を言おうが、それにまったく動じずこんな痛々しい姿になってもまたやってくるのが坂本という人物の特性の一つでもある。
放っておくこともできたが、人の往来激しい道の真ん中に、知り合いが倒れている。それを見て見ぬ振りできればもう少し器用に生きれただろう。


「あの・・・坂本さん。大丈夫ですか?」

「あっはっはっは! おりょうちゃんは相変わらず激しいのぅ!」

「あ、大丈夫なようですね」


分かってはいたが、とは口にせずため息でその意思を吐き出す。
高らかに笑いながら起き上がった坂本は服についた土ぼこりを払い、今気付いたかのようにへ視線を向けた。


「おお、おんしは確か金時のところの嬢ちゃんじゃなか」

です。あと、金時じゃなくて銀時ですよ。いい加減名前覚えないとそのモジャモジャむしられますよ?」

「あいつならやりかねんなぁ!」

「はぁ・・・まぁ、貴方がハゲようがハゲまいが、私にはまったくもって関係のない話なんですがね」


そのテンションの高さに少々ついていけないは、至極疲れた顔をして「それでは」と立ち去ろうとしたが、待ったをかけられては
その足を止めないわけにも行かない。何事かと振り返ればいつの間にか隣に立っている。
あまりのすばやい行動に驚きはしたが、が何かを聞く前にその手に持っている蜜月の風呂敷を見て、そこで働いているのかと聞いてきた。
答えても支障の無い質問だったので素直に肯定すると、ちょうど良いと先を歩き出す。
慌てて追いかけ隣を歩き、どういう事なのか問えばその答えは至極簡単なものだった。


「陸奥がその店の団子が好きといっていたからの〜」

「・・・賄賂ですか」

ちゃん、人聞きの悪いことは言わんでほしいぜよ。これは土産じゃ」


好きな店のものを買っていって、こんなところで油を売っていることに対しての怒りを少しでも抑えようと考えているのだろう。
それはどうみても賄賂以外の何者でもないのだが、坂本はけしてそれを認めない。
話していればあっという間の距離を二人で並び歩けば、見えた店は相変わらず客が多い。
のんびりと帰ってきてしまったがすぐにレジに入り一人ひとり客の応対をすれば、その横で坂本が朔へ久しぶりだと声をかける。


「あら、坂本さん。お久しぶりです」

「元気にしてたかのぅ? いつもの団子を貰いたいんじゃが」

「ええ、そう言うと思いまして用意はしておりましたが・・・」


朔は相変わらずの微笑を浮かべたまま、珍しく言葉をそこで切ると坂本の背後に視線を向けた。
が何事かと少し余裕が出てきたところで二人のほうへ視線を向ければ、坂本は能天気な笑みを浮かべたまま、しかしどこか固まっている。
それもそのはずだ。その後頭部に銃口を突きつけられ鋭い視線と地を這うような声音で、陸奥が立っていれば誰だってそうなる。


「ずいぶんとお早い帰還じゃのぅ。待ちくたびれて、先に団子は食させてもらったきに」

「相変わらずじゃの〜。そう焦らんと、わしはまだ団子を食べておらんが」

「安心しろ、おんしの墓前に山と積んでやるぜよ」

「イヤァァァ! む、陸奥さんお願いですから店先で殺傷沙汰はっ!!」


の叫びもむなしく、その場で二発ほどの銃声を響かせたが坂本はどう避けたのか。
それとも殺傷力は抑えられた銃弾だったのか。とにかく無事だった。
うまい具合に店に当たらず周りの客もどうやらこの光景は見慣れている常連ばかりのようで、さほど慌てた様子は無い。
陸奥の行動にも坂本のすばやさも、客の反応にもどれも驚くばかりだが、一番の驚きはこの騒ぎの中まったく笑みを崩さない朔だろうか。


「陸奥さん。お願いですから騒ぎは離れたところでお願いしますね」

「いつもすまんの。どうもこのモジャモジャが関ると駄目らしい」


邪魔したな、と坂本の首根っこをつかんでズルズルと引きずり店を去っていく。
その手にはちゃっかりとお土産の団子を入れた袋がもたれていた事に、かろうじて「またのご来店を」と呟くようにして言えた
ただし今度はもっと穏やかに事を済ませてください、と内心で付け足した。





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