「なァ、お前、金のタマと銀のタマ、どっちがいい?」 ででんっ、とテーブルの上に置かれたのは、江戸テレビのCMでも有名なキャットフード、「金のタマ」と「銀のタマ」である。 あまりのネーミングに強烈な印象を与えられ、記憶に鮮明に焼き付けられている。誤解しそうになるけど、ここでのタマって言うのはアレだ。猫の名前として一般的に馴染み深い方のタマだ。 銀さんから視線を落とし、ぱちぱちとまばたきをしてそれを見つめて、再び顔を上げる。 「俺としてはさァ、銀の方がいいと思うわけよ。お前、猫とは言え女じゃん?」 「にゃーにゃにゃー!」 (だから猫じゃないっつってんでしょーが!) 「わかったわかった。で、流石の銀さんもさァ、人間か猫かは別としてメスであるお前に、金のタマを食わせんのもどうかと思ったわけだ。いや、このタマは猫の名前であり肉球の球を訓読みしてるわけであってアレじゃねーんだけど。ねーんだけど、製作者側の意図は別として金のタマとか言われたら普通アッチを連想するよな? するんだよ俺ァ。「ホーラ金のタマですよーたらふく食えよー」とか言えねェよ。っつーか猫の名前だとしても共食いじゃねーかどーすんだ」 パッケージに描かれている金色の猫と銀色の猫を見つめてみた。ちなみに袋の中身の、あのスナックみたいなカリカリも猫の形だ。キャットフードを前面にアピールするはずのネーミングと餌の形のはずが、共食いを示唆している。 だけど、この際それは脇に置いておく。 「ニギャ―――――ッ!!」 (キャットフードなんか食えるか―――――!!) 「うごあっ!」 ザ・猫頭突き! 猫の体の、全身のバネを利用して、今度は「銀のタマ」について語っていた銀さん(だけど、銀のタマにしてもよォ……何か銀さんの危機っぽくね? やらねーよ? っつーかやれねーよ?)(知らねーよとツッコミたい)の顎目掛けて思いっきり飛び上がった。 ゴッチーン! と全身に衝撃が走る……けど、猫は案外石頭らしい。あまりダメージはなかった。……あれ? これ、猫云々の問題じゃなくて私が石頭なの? 「〜〜〜ってェなお前! 舌噛んだじゃねーか! 猫の額って「狭い」の代表的な形容詞のくせに当たりデケーなオイ! クリティカルヒットしたぞ今! ヤベッ、ちょ、俺の顎割れてない?」 「にゃー!」 (いっそ砕ければ男前になったかもしれないのに!) 「え、マジで!?」 何でこう言うのは通じてんですか!! フシャーッ! と全身の毛を逆立てて銀さんを睨みあげると、銀さんがビクッとした。頭突きはなかなかの攻撃力を持っているらしい。銀さんへの必殺技その2に決定だ。ちなみにその1は泣いてるフリだ。耳を垂れさせながら俯いてクスンクスンすると、銀さんは一人で慌てて必死で私のご機嫌を取ってくれる。銀さんは動物好きだから、たぶん、私が犬でも有効だったに違いない。 「ババアが人の話聞きゃしねーでこんなもん押し付けてくっから、俺が頭突き決められるハメになったじゃねーか。あー痛ぇ……」 さすさすと顎を摩る銀さんのセリフから、銀さんがキャットフードを持って帰った理由が分かった。 お登勢さんが私のために買ってくれたんだ。 ……そ、そのお気遣いは大変うれしいのですが、お登勢さん。私、キャットフードは食べらんないよ……! 主に精神的な理由で、である。ドッグフードの缶詰ってツナ缶みたいで美味しそうだなぁ、と思うことはあっても、口に出来ないのと同じだ。だってあれ、犬のご飯だよ? 人間のご飯じゃないんだよ!? 私が身も心も猫だったら、きっと喜んで食べたであろう「金のタマ」と「銀のタマ」。明日にでも、どこかの広場での野良猫集会のときに分けてあげようと思いつつ、あからさまにCGで作られたパッケージの猫を見つめた。 ごめんなさいお登勢さん。やっぱり私、猫のご飯は食べられません……! 「ハァー……」 「ちょ、おま、猫のくせに何なの、その深ェため息。俺の方がため息もんだよ? なんもしてねーのに頭突きってオイ。見てみ、顎赤くなってっから」 これは恩を仇で返す所業……! ごめんなさいお登勢さーん! と心の中で謝罪しまくって、お登勢さんにはごろにゃんと懐いて可愛がってもらうしかお礼を出来ない自分が情けなくってため息をつくと、銀さんが上の方で何か言った。 つーん、とそっぽを向いていると、頭をボリボリかきながら、今度は銀さんがため息をついた。 「しゃーねェ。猫のエサ買いに行くかァ」 「に゛ゃ―――――!」 (だから猫の餌は食わねーつってんでしょーがああぁ!) 原チャリに揺られること、十数分。程よい揺れと気持ちのいい風のおかげか、何だかとても眠くなってきた。 だけど、寝るわけにはいかない。だって寝たら、銀さんは絶対に変なもの買って、それをネタに私をからかうに違いない! ギンッと目を開くと、「……目ェ血走ってんですけど。頼むから魚くわえてスーパーから逃げ出すんじゃありませんよ」と銀さんに言われた。だから銀さんは私の事をなんだと思ってるんですか。猫とか言ったらまた頭突きかましますよ。 「頼むから暴れんなよ。あと鯛なんて高級魚は絶対ェ買わねーからガン見すんなよ」 「にゃー」 (わかってますよ) 鯛を見つめたのは、たまたまあの鯛がおいしそうだったからですよ! 言ったところで通じないけれども。 「それは“分かった”のにゃーなの? “わかんねー”のにゃーなの?」 「にゃーんにゃー」 (“わかった”のにゃーです) 「…………わかんねー」 だったら確認するのやめてくれ。 銀さんがごそごそと着物の合わせを引っ張って、私の頭を隠した。私ももぞもぞと後ろに下がって、着物の中に入り込む。 今の私、というか銀さんが原チャリに乗ってからの私は、ずっと銀さんの着物の前身頃の左側、ベルトをしているお陰でちょうど袋みたいになっているお腹の部分に入っていた。原チャリには籠がついてないし、お店の中を猫が歩き回るわけにもいかない。 私としては、ここはすっぽりと収まりがよくて、とても気に入っている。 気に入っているんだけど……。 「うおっ、牛肉高ェなオイ! ……いやいやいや、たまにはこんくれェする肉食わねーと、体もたねえよな。それにホラ、うちには育ちざかり? の猫? もいるし。なぁ、ちゃん」 「………………」 「……ちょっ、何、お前なんでいきなり黙るの」 ゆらり、ゆらり、と感じる心地よい揺れに、瞼がだんだん重くなってきた。「にゃー……」と、何でもないですよーと答えると、銀さんが私の眉間をつついた。 「お前、眠いの?」 「にゃふ……」 (ちょっとだけ) 「ちゃんと日本語喋んなさい」 「にゃー……」 (無茶言うな) 頭は働いているつもりなんだけど、答える声は、自分のものながらとんでもなく眠そうだ。 銀さんの着物と洋服の間に収まっているせいか、とっても温かくて、今の私は開店休業状態。起きていようとパチパチとまばたきを繰り返すけど、最後には閉じた瞼がくっついて開かなくなった。 うつらうつらとしながら答えていると、大きな手がわしゃわしゃと頭を撫でた。 「いーから寝とけ」 「にゃー……」 (すいません……) お言葉に甘えて眠りへの抵抗をやめると、あっという間に意識が遠くなった。 ゆらり、ゆらりと感じる揺れが、少し小さくなった。猫には本当に気を遣ってくれるんですね銀さん。くりくりと喉をくすぐられながら思う。 「……さて、安モンのキャットフードでも探すとすっ……っ!?」 ぴくん、と動いた私の耳に、銀さんがびくっとして独り言をやめた。猫の耳なめんじゃねーですよ。人間なんかよりはるかに優れた聴力持ってんですからね! たとえ寝てても聞こえてますから! 「……晩飯はやっぱ肉にすっかァ」 ぴーんと立っていた耳がぺたりと寝る。銀さんが小さく笑ったらしい吐息を聞いた後、本当に眠りに落ちた。 目が覚めると万事屋だった。 「お。丁度よく起きたな。晩飯出来たぞ」 「にゃっ!」 結局スーパーで寝ちゃったんだなぁ、と思いつつ、目覚めすっきりと立ち上がって居間に移動する。ソファに飛び上がると、テーブルの上に置かれたお皿には、ほこほこと湯気を立てるサンマがのせられていた。 「にゃー!」 (サンマだ!) おいしそうだなぁ……! 今か今かと食べる瞬間を待ちつつ大きな骨を取り除いてくれる銀さんの手元を見つめていて、あれ? と首を傾げた。 「にゃー、にゃにゃー?」 (晩ご飯、お肉って言ってませんでした?) 「そりゃアレだ。夢だ」 「にゃー……」 (なんだぁ……) 残念。あの牛肉、美味しそうだったのになぁ……と思いつつも「ほら、小骨は自分で何とかしろよ」と銀さんに差し出されたサンマを、ぺろりと平らげた。うん、やっぱり魚が一番! 可愛い (だけど時々、怒らせたかなって不安になるんです) 2009/04/02 ----- 「白緑」の唯斗様へ捧げる、相互記念夢です。大っ変お待たせ致しました…!! 「にゃんこ」でほのぼのだったはずが…気づけば初っ端から下ネタが入り、ギャグになり、気付けばとってつけたような「ほのぼの」と「お買い物シチュエーション」。 ……とんでもなくお待たせした挙句、銀魂は下ネタを入れねば! と変な使命感に燃え、放送コードギリギリ(むしろアウト)な単語を連発するにゃんこ、という話なのですが、書いた本人は結構楽しんでいました。自分が楽しんでどうする。 唯斗様にも、少しでもお楽しみ頂ければ幸いです…! 相互リンク、そして素敵な相互記念夢を、本当にありがとうございました! これからも、どうぞよろしくお願い致します! |
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「たとえば、君を想う事」の矩月ゆい様より、素敵な相互記念夢を頂きました〜vvv
もう、もう!!!!何この可愛い二人(一人と一匹)は!!
前半でいきなりの下ネタに、「さすが銀さん。ナイスな下ネタだ!」と親指立てましたvv
むしろ私、こう言うの大好きです(え)
えっと、こう言うのなんていうんでしたっけ。棚ぼた?(なんか違う)
とにかくとても嬉しいハプニングって奴ですよvvvすっごい美味しく・・ゲフゲフ 楽しく読ませて頂きましたvvv
そしてなにより!
ちょ、ふ、懐で寝るなんて・・・!!!!ものすごい萌えるんですけれどォォォ!!!!
うわー、うわーvvvvちょっと興奮しすぎて色々でそうですww
こちらこそ、相互リンクに素敵な記念夢をどうもありがとうございましたvv
こんな落ち着きの無い奴ですが、どうぞこれからも宜しくお願いしますv
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