ちゃん、あのさァ…これ…何?」
「…に…肉じゃが。」

片手に一つの小皿を持ちつつ顔を引きつらせる銀時。
その小皿の中に装われたそれは…とても“肉じゃが”とは形容し難い物であった…。






ちょっと甘めの味付けで








数日前から幾分か調子の悪い銀時。熱は無いものの、何かをしようと動くたびに体中が倦怠感に包まれる。
インターホンの音に呼び出されて玄関へと向かおうとすれば、思っているよりも重く感じられる両足、ふわふわする頭…。
トイレに行くのも風呂場へ行くのも、全てのことが億劫に感じられてしまう。
甘味処の無料券の有効期限が切れそうなのにも関わらず、極数分でたどり着く店へ行くのも面倒に感じてしまう始末…。

何もやる気が無いのはいつもと変わらぬことなのだが、やはり今回ばかりは少々様子が違うようだ。
ここで変に動けば拗らせてしまうことも十分考えられる。
こりゃーしばらくは休んでいなきゃなんねーかもなー、とぼやいていた矢先…この突然のの来宅である。
どこから聞きつけたのか銀時の不調を知り真っ先に看病しにやって来たのだ。

料理くらい作ってやると張り切るのでその好意に甘え台所を貸してやれば…この悲惨な事態である。







「お前さァ…ほんっとに料理下手だなオイ。」
曰く肉じゃがだと言うそれを一口口に含んだ銀時は、少しもオブラートに包むことなくその味の感想を述べた。

「ちょ!そんなはっきり言わなくたっていいでしょ!!これでも頑張って作ったのに!!」
その一言にさすがに傷ついたらしいは、何とも言えない表情でもさもさと口を動かしている銀時にむっとした表情で睨みを利かせた。

「そ、それに!これでもお妙さんの卵料理よりはちゃんとしたものが作れてると思うよ!」

「んなもん当たり前だろーが!つーかアレは料理とは言わん!ただの凶器だ!あんなもんと比較して安心すんな!!」

ぐちぐちと悪態を付きつつ肉じゃがを食べ続ける銀時。
十分元気ではないかと苛立ってまた彼の方を睨み見てやった。

「なんつーか…味気無さすぎだろこれ…。ちゃんと味付けしたか、お前?
それによォ…なんかこのジャガイモ、一切れが小せぇし…第一煮込み過ぎて形無くなってるだろ。」

確かに言われてみればそうだ。
器の中のジャガイモは形が崩れてしまいぼろぼろ…。
自分の料理下手を改めて自覚したは、ただ黙ってその銀時の持った器を覗き込んだ。
何も返すことが出来ない…。

「ううぅ…」

「ったくどーやったらこんなもん作れるんだか。
ほれ、ちょっとこっち来いや。教えてやっからよ。」

そう言って面倒そうな顔つきで台所の方へとを手招きする。
これでは自分は何のためにここまで来たのか分からないと一人罪悪感に飲まれつつも
…折角なので言われるままに彼の後ろに付いて行くことにした。












考えてみればは、銀時が台所に立ち料理している姿をまだ一度も見たことが無かった。
なんだか想像つかないやと失礼なことを頭の片隅で少し考えてしまう。

「でさ…どう作った訳?あの肉じゃが。」

冷蔵庫からあれこれと様々な食品を手に取って探し出しつつ、しゃがんだ状態のままの銀時がだるそうに声を上げる。

「えーっとね、とりあえず料理の本と睨めっこして作ったはずだったんだけど…。」

「んなもん堅苦しく見て作るよりも料理は慣れが大事なんだよ。感覚でいーんだよ、感覚で。
ちょいとアバウトなくれーでも十分なの。
…ほれ!とりあえずこれの皮剥いて!」

一通り使うつもりらしい食材を揃えた銀時は、その中からジャガイモを一つ取り出しての手へと差し出す。

「俺はその間ちょいと他のもん切ってるから。」
「うん、分かった!」






暫く黙々と皮を包丁で剥き続ける。その横で野菜を切ろうと別の包丁はどこにあったかと戸棚の下をごそごそと探す銀時。
数分の間、各々の作業の音が静かに台所に響いていたのだが…。
包丁を見つけ出し、屈んでいた腰をあげての手元を何気なく覗き込んだ銀時は一瞬にして血の気が引いていくのを感じた。


「待て待て待て待て待てええええ!!!!ちょ、おま、危ねええええええ!!!!」

がっ!
慌ててその手に握られている包丁を手元に気をつけつつも勢い良く奪い取る。

「ちょ!何するの銀さん!今いいとこだったのに!」

何するのじゃねーよ!!むしろこっちが何してんだって聞きたいくらいだわあああ!
…あー、俺が馬鹿だった。お前の不器用さを甘く見てた俺が馬鹿だった!」

そう、味付け云々の問題では無い。
その前には救いようが無い程に不器用な手先の持ち主だったのだ…。




皮を剥く手元は怖いという言葉が一番しっくりと表現出来るような覚束無い動き。
ジャガイモを握る左手は変に力が入りすぎてふるふると震えているし、右手に握られた包丁も安定感が無く動かすたびに刃先がおかしな方向へふらふらと揺れる。
ちょっとでも手が滑ればあっという間に流血沙汰だ。




「オイ、。ちょいと見てろよ。今から俺が一通り作ってやっから。」

呆れたようにしてため息をついた銀時はから奪い取ったジャガイモを握り直し慣れた手つきで皮剥きを始めた。

「わぁ…。」

その料理裁きを見たは、銀時はなかなかの器用人なのだと改めて実感させられる。
次々と器用な手つきで食材を切り刻んでは、鍋へと放り込んでゆく。
みりんや醤油、砂糖の量など多少大雑把な感じがあるためそれを問えば男の料理はこんなもんなんだという一言を返されてしまった。
砂糖の量が何だか多い気がしたが、あえてそれは言わずにお腹の中へとしまっておくこととしよう。


「最初に言っただろ?分量とかは一々量らなくたってやっていくうちに感覚で掴んじまえっからよ。
まー…の場合はその前にその包丁の扱いを何とかしない限りどうもできねーけどな…。」

銀時から痛い一言を言われてしまった。

「れ、練習します…。」

「…ったく…ほれ、ちょいと手貸せ。」

「え?」

まだ皮を剥いていないジャガイモをの左手に、そして包丁を右手に握らせる。
そのの小さな手を、背後から回り込むような形で銀時の手が覆い込んだ。

「ま、見てるだけじゃ覚えらんねーだろーからな。こうやりゃ、ちょっとはコツも掴めるだろ?
ほれ、動かしてみろ。」

銀時に手を添えられた状態でジャガイモの皮を黙々と剥いていく。
さっさっと器用な彼の手にされるががままに包丁を動かせば、自然とさっきよりも綺麗に皮が剥けていくのが分かった。

「あんまり手には力入れずに、包丁持った右手もぐらぐら動かないように安定させんだよ。
これでちったー分かったか?」

「う…うん…。」




なんとかそう答えつつも突然の出来事にの頭の中は真っ白になっていた。




自分より大きくて温かい銀時の手…
背中から直に伝わってくるその低い声…




どぎまぎしつつも何とか真っ赤になった頬を見られないようにと必死にジャガイモを持った手元を凝視することに専念し続けるだった。












それから何とか仕上がった銀時お手製の肉じゃが。ついでに作った他の食品も机に並べられこれから万事屋揃っての夕食だ。
新八や神楽にも歓迎され、折角なのでもここで食べていくことにする。

銀時の作ったなかなかに美味しい…しかしちょっとだけ甘みのある食事を頬張りつつ、彼に一言謝罪の言葉を述べた。



「ごめん、銀さん…。何だか私何のために来たんだか…。
…かえって悪化させちゃうんじゃ…。」


「平気だよ、別に。元々大して具合が悪かった訳でもねーし。

いやー、しかしの料理の下手さには驚いたねぇ、うん。
これ程までに素材をぐちゃぐちゃに出来るとはある意味感心するよ。」

そう言って意地悪い顔でにたーっと笑う銀時に少しむっとしつつ、いつかまたリベンジしてやると心に誓うのであった。




ある程度食事を終えたところでも食卓の片付けを手伝っていく。
空になった食器を台所へと運んでいく最中、あることに気づきはっとした。




「ねぇ、銀さん…この私が作った肉じゃが…いつの間に食べたの?」




そう。
さっきまで器に残っていたはずの失敗作が綺麗に無くなっていたのだ。

「あー、それはアレだよ。
あんまりにもお前が料理下手だから食材が可愛そうになってきて食べてあげただけ。
憐れみだよ、憐れみ。」

「酷っ!!いいよ!!今度こそリベンジしてやるから!!」

頭をぼりぼり掻きつつ後姿を向けている銀時の背中にこう吐き捨てつつも、
少し遠く離れたところから…小さな小さな声でこう呟くのだった。





「ありがとう、銀さん。」





(2009.2.7)
『百緑』の唯斗様より、「料理下手なヒロインに料理を教える銀さん」というリクの元で書かせて頂きました!
相互&素敵なリク、ありがとうございます!!

ああああああああ!!!は、恥ずかしい!!
穴があったら入りたいとはこういう心情のことを言うのですね!身をもって実感いたしました!!←
…と言いつつもかなり楽しみながら書かせて頂きましたよこのお話v
こんなものですが唯斗様へお捧げ致します!

またいつでもリクして下さいませ!これからも宜しくお願いいたします!




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「Clear Wind」の和栗あやか様より素敵な相互夢を頂きました!!!
ツンデレですよ奥さん!ツンデレ銀さん!!モフー!!(鼻息荒っ!)
こんなに素敵な密着ができるならいくらだって不器用でいられる!
是非銀さんには手取り足取り腰t(待て) ゲフゲフ!落ち着きます。はい、落ち着きますとも。
最高の夢をありがとうございます!!
もうこんな素敵な夢をいただけて今年の運は既に全部使い果たしたような気がします・・・(え)
本当にありがとうございましたー!!!


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