伝えない言葉と伝わる思い







は居間で家計簿片手に先日買い物に行ってもらった分のレシートが見つからないと右往左往していた。
それを横目に見ながら銀時はジャンプ片手に寝転がっているばかり。一緒に探せといっても動かないことは予想できている。
だがゴミ箱を見ても財布の中を見ても見つからず、答えなど期待はしていないが仕方なく聞いてみた。
返ってきた答えは予想にたがわず、レシートの一つぐらいどうと言うこともないとそっけない物だったが。

「そうは言いますけど、うちの家計が一円すらも惜しまなきゃいけないものって知ってますよね?」

「そうは言うけど今さらだろーが。だいたい、家計簿なんかつけたってうちの家計が黒になるわけねぇだろ」

「いったい誰のせいですかねー」

「よく食う定春や神楽が一番の要因だってことは明らかだな」

和室でレシートを探しているだろうへ、やはりそっけない言葉を返す銀時。
読んでいたジャンプが突然目の前から姿を消し、笑顔のの表情が見えたとき内心で「やばい」と思ったが焦りは微塵も見せない。
ここで弱みを見せれば思う壺だ。
奪われたジャンプを取り返そうと起き上がるが、銀時の目の前に掲げられたグシャグシャのレシートに一瞬不思議な顔をする。
それが探していたレシートだと気付き冷や汗が頬を伝った。

「第二の要因は、こうしてこっそり甘味を食べたりパチンコへ行く銀さんですよね?」

「いや、あの、これは・・・」

「このレシートに書いてある甘味は一体なんですかね? この日は調味料だけ頼んだはずなんですけどね」

「違ぇよ! これは店の前で腹をすかせた子犬が居たから・・・そう、それであげるのに買ったんだよ。俺は断じて食べてない!」

「へぇ、お腹をすかせた子犬にチョコレートを。知ってます銀さん? 犬や猫にはチョコはあげちゃいけないんですよ?」

先日、買い物を頼まれていた銀時は甘味不足と甘い香りの誘惑に勝てず、ついチョコレートを買ってしまっていた。
もちろん道中ですべて腹に収めたのだが、レシートと言う証拠を残していたことに気付いたのは家についてからだ。
内心慌てた銀時はビニール袋をへ渡す傍ら、急いでポケットの中にレシートを丸めて隠した。
後でそっと捨てようと思っていたのだが、すぐ後にが出した土産の団子に気をとられすっかりレシートの存在を忘れてしまう。
今朝になってレシートを探すの姿を見てその時のことを思い出した銀時だが、そのとき着ていた服は洗濯に出したはず。
今日の洗濯当番は新八で、たとえポケットの中にレシートが入っていることに気付いても、銀時へ文句の一つでももらしてゴミ箱直行は目に見えている。
そこのゴミ箱は今朝のゴミ出しで空にしたはずで、そのゴミ袋を出したのは銀時自身だ。よく覚えている。
一番良いのは気付かれずに一緒に洗濯されてしまうことだ。ポケットの中が大変なことにはなるが、確実な証拠隠滅ができる。
それが何故、今の手にあるのか。冷や汗が伝う頬はそのままに疑問を視線でぶつけた銀時へ、が笑顔で答えた。

「どうやら洗濯の際に気付いた新八君が、わざわざ私の机の上においてくれてたみたいです」

「へ、へぇ・・・そうなんだ・・・」

「で、銀さん」

「なんだよ・・・」

「チョコレートは、おいしかったですか?」

こんな時だけ細やかな気遣いが憎らしいと思う銀時だったが、その恨み言は言葉にはならず響いたのは銀時の声にならない叫びになるはずだった。
いつもならここでお得意のアイアンクローが来るはずなのだが、それがない。
不思議に思っている銀時をよそには笑顔のままレシートを家計簿に貼り付け、残りを書き込むと台所の奥へと引っ込んでしまった。
怖い。ただその一言に尽きる。いつもくるだろう攻撃が来ないだけでなく、笑顔なのだ。これを怖いと思わず何を怖いと言えばいいのか。
銀時はソファに座ったまま台所から聞こえるの鼻歌を聞き流すことしかできない。
何かあるのではないか。そう思っても下手なことを言える立場ではない。何せ隠し事がばれた後だ。
気にしなければいいのが一番だが、気にしないほうが無理だろう。どうにかして聞き出したい、しかしそれができない。
下手をすれば甘味禁止一週間なんていわれるかもしれない。それは銀時にとって死活問題だ。
ソファに体を預けたまま、必死に脳をフル回転させるが銀時いわく、甘味不足で脳の加速も不十分らしい。

「駄目だ、何も思いつかねぇ」

「何がですか?」

「何って・・・いや、なんでもねぇよ」

「どうせ甘味禁止されないための逃げ口上でも考えてたんでしょうけれど、そんな事しませんよ」

ここ最近ではどうやら思考が読まれているらしく、一手先を行かれがちな銀時だった。多少ずれはあるもののある意味的確なところを突いてくる。
文句の一つも言いたいところだが、甘味禁止にはしないという言葉を漸く理解したところで出かかった文句は飲み込んだ。
いつもの調子なら笑顔でさらりと甘味禁止を言い渡すところだが、今日はどうしたことか。心なしか機嫌がいいようにもみえる。
絶対に何かある。そう銀時の中で確定づけるには十分だった。

「なぁ・・・なんかあったのか?」

「別に何もないですよー。ほら、銀さんはおとなしくそこに座っててください」

「いや、絶対何かあるだろ。だって怖ぇよお前。何でそんな笑顔なの?」

「あれ? 銀さんそんなに私に怒られたいんですか?」

そんなわけがない。否定をそのまま口にすれば大人しくしていろとまた台所の奥へ姿を消した。
すっきりしない気分のまま銀時は読みかけのジャンプに手を伸ばして、無心になろうと必死だった。気にするとキリがないと判断したのだろう。
暫くして台所から嗅ぎなれた甘い香りが漂ってくる。ちょうど読み終えたジャンプをその場において、台所を覗き見た。
ボウルの中身を懸命に泡だて器でかき回すの姿と、キッチンの上に置かれた材料などで何を作っているのかすぐにわかった銀時は
気付かれないようにそっと居間へ戻ると財布の中身を確認する。相変わらず寂しい中身だが、小一時間ほど時間をつぶしにはちょうど良い。
ポケットに財布をねじ込むと無関心を装ってちょっと出かけると言い残し、の返事を待たずに外へ出た。
ほんの少しの時間つぶし、あわよくば小銭だけでも稼げるかもしれない。そう思っていたが世の中そんなに甘くはない。
財布の中身のなけなしのお金を銀玉に変えて、全てを機械に吸い取られてきた銀時はイチゴ牛乳片手にさらに時間をつぶして家路へつく。
扉を開けたところで甘い香りが漂ってきた。

「おかえりなさい。で、どうでした?」

「どうって、なにが・・・」

「ちょっと銀さんタバコ臭いです。大方、時間つぶしにコレ、でしょう?」

「・・・手ぶらなところを見て察しろよ」

クイっと手をパチンコ特有の動きで示せば、銀時からは苦虫を噛み潰したような顔をされる。
銀時の心情を知らずはグイと背中を押して居間へと連れて行く。テーブルの上には小さいがケーキが置いてあった。

「どうせ出かける前に気付いてたと思いますけど、まぁいいです。はい、座って座って!」

「いーや、銀さんは何も気付いてませんよ。気付いた事と言ったら、オメーが不気味に機嫌いいのと怒らねぇことぐらいだよ」

「はいはい。いいから、ほらフォーク」

ソファへ座らせた銀時へフォークを渡すとその隣にも座った。
小さなケーキを切り分けて銀時の皿へ盛り、自分の分も分けるとおもむろにクラッカーを取り出して紐を引っ張る。
独特の音と香りが漂い、紙が散らばる様を瞬きを繰り返しながら呆然と見ている銀時の耳に届いたの笑い声。
最近のクラッカーは紙が散らばらないタイプが多く、は手元へ紙をクルクルと手繰らせてまとめている。

「誕生日おめでとう、銀さん。せっかくの誕生日ですから、今日あったことは全部水に流しますよ」

「あぁ・・・」

「そっけないなぁ。まぁ、それでこそ銀さんですけど」

「なんだよそれ」

気にしてはいないが、態度だけ気にした風に装えばまた笑い声が鼓膜を心地よく刺激する。
勧められるままにケーキに手を伸ばして一口だけ口に入れた。期待した甘い味と香りが広がり、頬が緩みそうになる。
隣で同じようにケーキを頬張るの姿を横目で見て、銀時はさらに表情筋を硬くした。
互いに交わす言葉もなく、静かな部屋。そこに響いた電話の音に一瞬肩が震えたは、慌てたように電話へ走る。
応対の言葉を聴けばどうやら依頼のようだ。銀時はメモを取るの背中を見ながら、口元だけ小さく笑みを浮かべた。

「ありがとな」

銀時の言葉は、には聞こえていない。聞こえないように小さくつぶやいたのだから当たり前だろう。
それでも、きっとこの気持ちはわかってるだろうと銀時はケーキの最後の一欠けらを口にした。





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間に合った銀さんのお誕生日!
しかも今年は101010!見事にトリプルです!
いやはや、今年は無事にお誕生日祝いできるかわからなかったですが、何とかできてよかったよかったv
一昨年と去年の趣向とはちょっと変えて、どうせならひっそりこっそりと、長年連れ添った二人。的な感じで書きたかった。
そして書けた!・・・・と思う!!(ぇ
一応前進ヒロインで書いてみたよ。
いつも何かあったらアイアンクローをかまして力ずくで解決するヒロインだけど(それヒロインか?)たまにはおとなしめにしてみようと
色々努力した結果がコレです。
甘くなってればいいなー。

なにはともあれ、おめでとう銀さん!
生まれた日に感謝!!



10/10/10


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